近代インプラント治療の変遷

近代インプラント治療の変遷

「インプラント」という名称が初めて使われたのは、1885年。
アメリカのヤンガーが手術で用いたのが最初だそうです。 
20世紀に入ると、歯科インプラントは戦傷外科として戦争で顔面を損傷した兵士に対し、 義顎を施すための治療技術から発展していきます。 
骨膜下インプラントは、1938年ミュラーによって手術されだします。
一方、骨内インプラントの発展は、アメリカのグリーンフィールドらが試行錯誤を繰り返し、 さらにフランスのシェルシェブは、コバルトクロム製のスクリュー状インプラントを1962年に開発し、話題になります。 

ただし、どんなにインプラント技術が高くても、素材そのものについての難問がありました。
物質によっては、人体が拒絶反応を起こし、異常をきたしてしまう場合もあったのです。
インプラント素材の条件としては4つあります。
「人体に毒性がない」
「人体に免疫反応を起こさない」
「噛む力に耐えうる強度がある」
「人体になじみやすい」。
素材としては、コバルトやクロム、金、白金、セラミックなども用いられましたが、いずれも課題がありました。
それをクリアしたのがチタンです。
このチタンの登場が、インプラント発展の起爆剤となったのです。
しかもその偉大な発見が、もともとは偶然の産物だったのです。  

1952年、スウェーデンの医師P・I・ブローネマルク教授が、ある実験のためにウサギの膝の骨に取り付けた装置を、 数か月後回収しようとしたら、なぜか装置がはずれませんでした・。
 調べてみると、チタン製の装置のネジにウサギの骨が見事に結合していたのです。
これが、チタンと骨の完全結合を発見するきっかけとなったのです。 
ブローネマルク教授はその後、この現象が人体に応用できないかと考え研究を重ねた結果、 人体でも拒否反応を起こさず骨とチタンが結合することを確認しました。
この現象を、オッセオインテグレーション(osseointegration)と命名されます。
ちなみに、オッセオ(osseo)とは「骨の」、インテグレーション(integration)とは「結合」や「一体化」を意味しています。
このオッセオインテグレーションの発見こそが、インプラントを飛躍的な発展に導いきました。  

そして1965年本格的に人間への応用が始まりました。 
歯科での応用は医科の後になりました。今でもチタン製の器具は医科、歯科で多く利用されています。
例を挙げると骨折した部位をつなぐプレートとそれを留めていくネジですとか、義肢と残った骨をつなげる部品、 癌などで切除してしまった体の一部をシリコンで作り、それを留めるためのマグネットを留めるためのネジ、骨に埋め込む補聴器など様々です。  

1965年、ブローネマルク教授によって治療された最初の患者さんは、 治療後40年近く当時のインプラントを使用して、最近亡くなっています。
現在、ブローネマルクインプラントの20年累積残存データとして発表されているものには、 1983年から85年にかけて治療された報告で、上のあご(上顎)の残存90.0%、下のあご(下顎)の残存92.3%というデータが残っています。 
また、10年以上のデータでは96%、5年以上のデータでは98%以上と高い確率を残しています。  

現在でもインプラントはその形を変えて新しい物が開発されています。
歯肉に対して問題ない物、骨の吸収のない物、美しさに優れた物などがあげられます。
また、インプラント体の表面の形態も、できるだけ骨との結合が高い物が開発されていますので、 残存率はさらに上がっていくのではないでしょうか。

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